大日本絵画「ビジュアルブック フレンチタンクス&アーマードビークルズ 1914-1940」

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大日本絵画「ビジュアルブック フレンチタンクス&アーマードビークルズ 1914-1940」

 

原題を「The Encyclopedia of French Tanks and Armoured vehicles 1914-1940」というフランス戦車・装甲車両の百科事典的な本です。日本語タイトルが「ビジュアルブック」となっているように写真・イラストが豊富に使用され「ビジュアル百科事典」というような体裁。フランスの戦車研究家フランソワ・ヴォヴィリエ氏による著作なのに原題が英語なのはちょっと不思議だったのですが、奥付を見ると仏語版・英語版の2種が刊行されたようで、今回紹介するこちらは「日本語版」ということになりましょう。邦訳はブラウザゲーム「World of Tanks」日本語版のミリタリーアドバイザー他、様々な軍事書籍・記事の翻訳・執筆で知られる宮永忠将氏によるものです。

 

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タイトルにあるように1914年から1940年にかけての、フランス陸軍で開発・運用された戦車・装甲車を網羅的に解説しています。書籍全体は「攻撃力」「スピード」「システム」の3つのテーマに分かれた構成で、それぞれのテーマごとに時系列にそった開発の流れ、車輛の進化や発展を追っていくものです。「システム」という概念は分かりにくいかも知れませんが、様々な補助車輛による「機甲化」システムのことだと思えばよろしいかと。日本ではこれまでフランス戦車というのはややマイナーな扱いを受けてきましたが、「ガールズ&パンツァー」などをきっかけにしてこのジャンルについて知りたい、学びたいという読者の方にはぴったりな1冊です。

 

(※この画像はブログ掲載にあたって加工処理を施しています)
(※この画像はブログ掲載にあたって加工処理を施しています)

 

正式採用されたものから1輛のみの試作に終わったものまで、どの車輛にも記録写真や美しいイラストが添えられて(一部の計画車輛はブループリントのみ)、非常に目に楽しい内容といえましょう。ほとんどの写真は非常にクリアーな画質で掲載されているのも大きな特徴で、デジタル補正が行われているとは思われますが、ナチスドイツの占領下にあっても資料が失われることなく現代まで受け継がれたことを称えたいものですね。中には本書が初公開となるスクープ写真も載っています。大変貴重な資料です。

 

ところで、前書きには「フランス戦車研究の歴史」が簡潔にまとめられていて、1990年代にフランスで軍事関連のブームがあり、関連書の出版が盛んになったとあります。この時期は日本でも軍事(特に戦車模型)のブームが起こり、関連書籍も多く刊行されました。香港でドラゴンモデルが起業したのもこの時期で、どうやら全世界的に軍事がブームだったようですね。ではその頃何があったのかと言えば、やはりソ連の崩壊と湾岸戦争が挙げられましょう。本書の内容とは直接関係が無いのですが、1990年代の持つ意義というのはちょっと興味深いところです。

 

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カラーイラストも非常に美しく、フランス軍の華やかな迷彩塗装がよく目を惹きます。このままプラモデル製作のガイドとして用いる事も十分可能でしょう。ソミュアS35やB1bisなど日本でもよく知られた戦車が多く掲載されています。表紙イラストにもなっているFCM2C重戦車「アルザス」号の、パレード用に美しい塗装とフランス国旗を飾りつけた姿は模型で再現すれば注目浴びること間違いなし。またフランス軍の迷彩塗装と言えば本当に森や林の「絵」を描いてしまう車輛があるのですが、ルノーED機関銃車に描かれた「風景画」があまりに下手過ぎて、なんだか学芸会の書き割りが走っているようにしか見えないのは思わず笑ってしまったり。

 

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本書を読んで痛感するのはフランス製AFVの先進性でしょう。フランスの戦車と言えば第一次世界大戦では世界初の戦車の座をイギリスに勝ち取られ、第二次世界大戦ではドイツ戦車に完敗し、あまり良い印象を与えてくれません。しかしながら、それぞれの車輛を個別に見て行けば、同時代の他国に先んじる技術やアイデアが多くみられます。世界で初めて砲塔を備え、現代までに続く戦車の基本形を作ったのはフランス軍のルノーFT軽戦車であることは広く知られておりますが、本書にはそのルノーFTをベースにした様々な派生車輛も多く掲載され、架橋戦車や戦車回収車など当時はユニークなもの(そして現代では広く一般的な存在となったもの)を目にすることが出来ます。

また第二次世界大戦中のドイツ占領下の時代を越えて、戦後になってから大きな発展を遂げたものもあり、技術の連続性というものを感じさせます。そういう一連の「流れ」を知ることが出来るのは、本書の大きな特色です。

 

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こちらは後にB1bis戦車として結実する「攻撃戦車」の試作車輛群の写真です。複数のメーカーによってトライアルが行われ、ルノー案をもとに開発が行われたのですが、試作段階(とB1戦車の初期型)では砲塔は機関銃を装備しているだけの副次的なものであることに注意してください。「主砲」はあくまで車体にケースメート式に設置された陣地攻撃用の榴弾砲で、機関銃塔は「基本的に監視および指揮スペースとして使われる計画であった」とあります。これは戦車というよりドイツ軍の「突撃砲」に近い構想で、かつドイツ軍より10年は先んじて計画されていました。またシトロエンによるハーフトラック(半装軌車輛)の開発やロレーヌ製の装軌式装甲兵員輸送車など、様々な分野でフランスAFVの先進性を見て取ることが出来るでしょう。

 

フランスがヨーロッパでも一、二を争う「自動車大国」であることは今も昔も変わりません。1914年から1940年にかけての戦闘車輛開発にもそれは色濃く反映され、多くのメーカーが様々な車輛を開発しています。むしろ多すぎるぐらいで、宮永氏による訳者あとがきにも「アイデアはあっても大量生産能力に欠け、陸軍内のセクショナリズムがAFVの需要を細分化させてしまった」とあります。たとえ先鞭をつけても実用化の度合いでは他国に劣る。本書に見られる「多様性」はフランス戦車の大きな魅力ではありますが、実際の戦争に際しては、むしろ弱点だったのかも知れないなと、そんなことをも思わされます。いずれにせよフランス戦車について知りたいという方には必須の一冊だと言えましょう、むしろ教科書と言っても過言ではない(笑)

 

 

 

デザートイーグルパブリッシング「IDF ゼルダ M113 Pt.2 コマンド&メドバック」

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ゼルダと聞いて世の大抵の人々は任天堂のRPGを思い出すことでしょうが、世の中そうでない者もおります。

現用イスラエル軍AFVを積極的に紹介しているデザートイーグルの写真集。M113を扱ったものとしては2冊目で、「パート1 フィッターズ」の続きとなるものです。今回は指揮車型と野戦救急車型を扱った内容でフルカラー84ページ、写真/イラストは185枚以上が収録されています。

 

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M113装甲兵員輸送車は1960年代から使用されているベストセラーAFVです。低コストで高性能、シンプルな構造は本家アメリカだけではなく各国で様々な派生型を生み出し、なかでもイスラエル軍はM113とその系列車両を多く使用していることで知られています。イスラエル軍AFVの例に漏れず本車も独自の改良、装備の追加を行っていて、いわゆる魔改造を楽しめるもの。この辺りは日本の書籍などではなかなか追いかけにくいものですから、地元の利を活かして適切な情報をまとめて刊行してくれるデザートイーグルはイスラエル軍好きならチェックは欠かせない版元でしょう。

 

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近年では各国の機械化歩兵運用に歩兵戦闘車(IFV)が使用される例が多いのですが(ちなみにイスラエル軍はこの種の車両を採用せず、一線を退いた戦車を基にしたアチリザット等の重APCを投入しています)、多くの人員を要する司令部機能を持たせるには従来型のAPCが重用されます。通信と情報のネットワークが日々重要度を増している現代、装甲コマンドポストの占める地位もより大きくなっていると言えるでしょう。

 

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多数のロッドアンテナが林立するのはイスラエル軍の指揮車両では見慣れた光景ですが、本書ではパラボラアンテナを搭載している例も見られます。当然内部器材も様々に更新されているのでしょうが、さすがに軍事機密の壁は厚いようで残念ながら指揮車パートでは車体内部のショットはほとんど見られません。それでも十分に濃い内容で、車両作成やディオラマの題材を探すのには欠かせないものです。T字型の「ダブルロッドアンテナ」基部やイスラエル軍名物(?)車外装備品搭載ラックなどの接写も多く、ディティールアップ資料としても万全なものです。

 

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野戦救急車型のパートでは、ユダヤ教のイスラエル社会に合わせて車体前面と側面に描かれた、マーゲン・ダビド公社の白地に赤い六芒星が非常に目を惹きます。救急車型というのは模型の題材としてそれほど多く選ばれるものではないかも知れませんが、この個性的な外観は展示会などでアピール出来るかもしれません。指揮車両と比べて追加パーツが少ないところも狙い目(笑)。

 

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とはいえ相変わらず荷物マシマシで標識が見えなくなってしまうのは、それでいいのかイスラエル軍。とはいえイスラエル周囲の仮想敵国が戦場での救命任務を尊重してくれるかどうかは、あまり期待しないほうが良いのかも知れません……。本書は現場の部隊に直接取材を行っているのですが、救急標識を描いた車両が銃架に機関銃を装着している例も見られます。そんな「実態」が垣間見られるのもデザートイーグルならではのものでしょう。

 

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救急型では車内写真や天幕を展張しての簡易包帯所の様子など、こちらもあまり他の資料では見られないようなものが多数掲載されています。写真キャプションについては高校英語ほどの簡単な英文ですので、内容理解についてはそれほど身構える必要もないかと思われます。

 

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イスラエル軍のM113については以前バーリンデンプリダクツが盛んにレジン製改造パーツを出していました。しかし同社は事実上廃業し、シリコン型を廃棄している様子が古参モデラーに大きな衝撃を与えたことは記憶に新しいものです。最近はAFVクラブやドラゴンなどイスラエル物を手掛けるメーカーから新しいM113系キットがリリースされるアナウンスもありましたから、どこかでIDF改造パーツを出してくれないものかなと、思ったりもします。IDF沼は楽しいですよ?

 

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なおM113とはあまり関係がないのですが。本書収録のフォトとしてはメルカバMk2ベースのコマンドポストと野戦救急仕様アチザリットが非常に興味深かったことを末尾ながらに記しておきます。アチザリット救急車って一体……