エアフィックス「1/72 ボールトンポール デファイアント Mk.I」キットレビュー

エアフィックス「1/72 ボールトンポール デファイアント Mk.I」キットレビュー

2017/06/05

  • 作例・レビュー

01

 

エアフィックス「1/72 ボールトンポール デファイアント Mk.I」

 

さて、まず最初に謝らなければならないことがあります。私は長年この飛行機を「後ろ向きにしか戦えない戦闘機」だと思っており、公私に渡って度々そのようなことを吹聴してきました。

 

が、

 

実は「ちゃんと前向きに戦える戦闘機」でした。事実と異なる風評を広め、ボールトン・ポール社および関係者の皆様に多大な被害を与えたであろうことをお詫びします。

 

ああ失礼、「ちゃんと」ではなく「いちおう前向きにも戦えないことは無いが、だからといってどうにもならないことに変わりはない戦闘機」でした。事実に対しては真摯に向き合わねばなりませんね。

 

とりあえず紅茶を淹れよう。

 

02

 

さてそれではキットを見ていきましょう。ボールトン・ポール デファイアント戦闘機はいわゆる「軍事の英国面」を体現する存在として、珍妙な存在ながらファンの多い機体です。岡部ださく先生の御本「世界の駄っ作機」シリーズ第一巻で早速とりあげられ、先日刊行された増補改訂版では記事を改稿し前後編にボリュームアップされるほどの人気。経営再建されたエアフィックスが完全新作キットを発売するや全世界的に大人気で品薄となり、エアフィックスの中の人さえ驚いたという噂のプラモデルがこちらです。

 

皆さんそんなにデファイアント好きなんですか?

 

ヘンですよ。

 

私も大好きですけれど。

 

03

 

最近のエアフィックス1/72飛行機プラモデルの特徴としては、パーツ総数を抑えながらも再現度は高いもの、出来の良いモデルを組み立てやすい配慮で設計されていることが挙げられましょうか。本キットも例に漏れず、基本パーツは小さな3つのランナーに収められています(それでも複数の部品が選択式になっている箇所も存在します)。週末の時間を利用して簡単に組み立てられるタイプのプラモデルです。

 

04

 

デファイアント自体が、特徴的な「ある部分」をのぞけば素直でシンプルなヒコーキだからなのかも知れませんね。いや変な機体ですけれどねこれ。

 

05

 

その特徴的なある部分のおかげでクリアーパーツは若干多めです。単発戦闘機らしからぬ丸いパーツが目を惹きますね。そう、これこそがデファイアントMk.Iをデファイアントたらしめている「ボールトン・ポール タイプAターレット」の天蓋部分に他ならぬのです。いわば本機の魂の座、アイデンティティとでも呼ぶべき重要な部分。

 

…そして最大の欠点(えー)

 

06a

 

デカールは2パターン用意されています。夜間戦闘機仕様の「DZ◎Z」、第151スコードロン所属機は改訂版「駄っ作機1」にもカラーイラストが載っておりましたな。シャークマウスが特徴のなかなか勇ましい姿で、ちょっと深海魚の「ラブカ」みたいでもある。また、機体各所のコーションマーク類も細かいデカールが用意され、それらの貼り付けには別紙で指示書が用意されています。こういう配慮はありがたいところ。

 

07

 

各部のモールド、スジボリやエンジンパネルのディティールなどは最近の設計らしく綺麗な彫刻でしっかり彫られています。スミ入れすると引き立つでしょうねこういうところは。

 

08

 

対して動翼部分は羽布の下にあるフレームがうっすら浮かび上がるソフトなタッチで再現され、

 

09

 

主脚収納部分の配線は実感あふれるものです。総じて「固いところは固そうに、柔らかいところは柔らかそうに見える」メリハリの効いた、コントラストのはっきりした部品が並んでいます。

 

10

 

パイロットとガンナーの2体が付属するフィギュアも非常に緻密に再現され、ゴーグルのガラス部分まではっきり見て取れるもの。またこの2人がちゃんと人相を違えてあるところもナイス!ひとつひとつの箇所がどこも丁寧なつくりです(それは例えば箱絵の格好良さにも言えることでしょう、こういうところがしっかりしていると、俄然制作意欲も湧くものです)。

 

11

 

組み立て自体もパーツの嵌合は良好で、素直に楽しめました。最近は1/72スケール飛行機でも「究極」を謳うような壮絶な製品がありますが、ああいうものとは違って肩ひじ張らずに気軽に楽しめます。

 

12

 

計器盤だけデカール貼ってみました。このあたり「どーせエデュアルドのエッチング使うんでしょみんな」みたいな割り切りを感じなくもない(w

また操縦席の後方にぽっかり開いた「穴」がターレット取り付け基部になります、ただ、ここはすり合わせをしっかりやっておいた方が良いでしょう。あとでちょっと苦労したのだけれど、いまこの画像見るとなににしくじったのかよくわかる。具体的にいうとパーツNo.78のターレット基部を取り付ける際には、説明書の手順をいくつか飛ばしてターレット部分、パーツNo.85がスムーズに回転できるかをどうかチェックしながらやっていくとよいです。

 

13

 

機体左右の貼り合わせが良いのでそのまま気持ちよく進めてしまった……

 

14

 

主翼部分も綺麗に組み立てられます。しかしこうしてみると機体にも主翼にも、前方固定武装がひとつもないというのが、まあよくわかる。

 

15

 

ちょっと感心したのがラジエター内部の前後パネルです。ほぼ同一、しかし微妙にサイズの異なるパーツにちゃんとF(Front)とB(Back)の取り付け指示がある。極小のパーツにちゃんと読める綺麗な文字。実に丁寧な仕事ぶりです。

 

16

 

そもそもラジエーターやオイルクーラーの内部って普通は省略されそうなものですが、パーツ総数が少なくても大事なところにはリソースを投入しているのだよなー。近年のエアフィックスが大きな称賛を受けているのが、このキットひとつ組むだけでもよくわかってきました。

 

17

18

 

主翼も尾翼もぴたりとはまる気持ちよさ。水平尾翼には大きな上反角が取られているのを、プラモ作って始めて知る。垂直尾翼の羽布張り表現も綺麗ですねー。

 

19

 

主脚部分はやや複雑なパーツ構成ですが、組み立て説明書がこのパートになると「コマ割り」を増やし二色印刷も効果的に使って、組み立て過程を非常に丁寧に説明してくれます。

 

IMG_20170604_0005

 

例えパーツの設計が良くても説明書の編集がまずいとプラモデルの魅力は半減しちゃいますから、こういうところも丁寧に作られている製品は気持ちがいいですね。時間を楽しく費やすことが出来ます。

ちなみに駐機姿勢と飛行姿勢は選択式、飛行姿勢で作る場合は主脚扉を閉じたパーツ1個で塞がります。別売りのスタンドに接続させるための「隠し穴」も在り。

 

20

 

そして本機のアイデンティティたる「ボールトン・ポール タイプAターレット」部分のパーツ構成。四丁の7.7mm機関銃は上下可動、ターレット基部を未接着のままにすれば回転させることも可能です。ガンナーのフィギュアはターレット内のインテリアパーツと選択式。

 

21

 

組んでみるとよくわかりますが と て も 狭 い ですね。乗り込むだけでも一苦労で狭いターレット内部にはパラシュートを置く余裕が無く、ガンナーはフライトジャケットとパラシュートが一体化された「ライノスーツ」と呼ばれる特殊なジャケットを着ています。戦闘中に脱出するには、大抵の場合はうしろ向きで戦闘しているターレットを正面に向け、側面の狭い出入り口から落ち着いて這い出るようにしなければなりません。そして大抵の場合は機体には穴が開いたり火が付いたりしているので、なかなか落ち着いて出られません。あまつさえ電気系統が死んでしまうと動力旋回式のターレットも止まってしまうので、そもそもドアが開きません……

 

そんなときはどうするかって?もちろん機体の床に穴をあけて脱出するのです。できるわけないだろうって?大丈夫、斧が用意してある。

 

いやあ、戦争は危ないですね、なるべく戦争しない方がいいですねえ。デファイアントを好きになると、どんどん戦争が嫌いになるぞー。我々に平和の尊さを教えてくれる、何と素晴らしい飛行機でしょう。全世界的に大人気だというのもむしろ当然です。

 

22

 

なおこのキットの唯一の難点としては、2か所あるアンテナ、ピトー管など細いパーツがやたらと脆くて折れやすいということでしょうか。悉く折れましたよええ、だからその、

 

23

 

完成した機体に例えピトー管が付いてなくても、そんなことは問題視しないのが紳士のたしなみだと思いませんか?

 

24

 

ボールトン・ポール デファイアントMk.I戦闘機は主に敵爆撃機を迎撃するための防空戦闘機として第二次世界大戦当時のイギリス空軍に装備されました。機体後部に動力式のターレットを持つ特異な様式は、これに先立つ第一次世界大戦時代、後部座席にガンナーが搭乗して大戦果を挙げたブリストルF2b戦闘機のコンセプトを発展させたものといわれています。四丁の機関銃を装備した強大なターレットを素早く動かし、大火力を集中的に投射できる戦闘機として大きな期待が寄せられました。

 

25

 

エンジンには同時期のイギリス空軍主力戦闘機、ホーカー・ハリケーンやスーパーマリン・スピットファイアと同じロールスロイス・マーリンエンジンを装備。機体設計も優れたもので、やはりハリケーンやスピットファイアとの近似性が見て取れます。

 

27

 

ターレット前後の整流板を引き下げれば、ガンナーは非常に広い射角を得ることが可能です。一見不得手と思われる前方への射撃も、射撃角度19度以上であれば攻撃が可能で、これは敵爆撃機に対して優位を採れる、後下方からのポジションで「斜め撃ち」する事を意味しました。この「斜め銃」は第二次世界大戦後半の日本やドイツでも採用されていますが、元をただせばやはり第一次世界大戦のイギリス軍戦闘機が始まりで、一見すると奇天烈に見えるこの戦闘機、実は由緒正しい一門の末裔なのです。

 

そんなわけで第二次世界大戦がはじまればデファイアントはイギリス空軍戦闘機部隊の重鎮となり、大活躍する予定でした。

 

実際には、ちっとも活躍しませんでした。

 

何故か?

 

「後ろ向きにしか撃てなかった」というのは誤解で、これはこのプラモデルを作ってみればよく解ります。前の方にも銃は撃てます。難点のひとつは「ターレットが思いのほか重い」ということで、同じエンジンを積んだ同じ規模の戦闘機であるハリケーンやスピットファイアに比べると、デファイアントの機動は鈍重なものでした。「第一次大戦の頃に比べるとドイツの爆撃機のスピードが早くなってた」こともデファイアントが活躍できなかった大きな理由ですが、第二次世界大戦の時のドイツ爆撃機には、「第一次世界大戦と違って、護衛戦闘機が付いてきた」からだ、というのがどうも一番致命的だったらしい。ハリケーンやスピットファイアでさえ手を焼く軽快なメッサーシュミットを相手にするには、デファイアントは重すぎ、いくらターレットを前に向けても真正面には撃てないので、戦闘機同士の空中戦にはまるで役に立ちません。詳しいことは岡部先生のご本をどうぞ(宣伝)。

 

28

 

パイロットのキャノピーは巡航時と戦闘時に加えて開いた状態にすることも可能、機首左右の排気管は通常型と夜間戦闘機仕様の消炎型を選択できます(今回は通常型で組んでいます)バトル・オブ・ブリテンに先立つダンケルクの戦いではそれなりに戦果を挙げているのですが、これはどうもドイツ人パイロットが通常の戦闘機だと誤解して、定石どおりに後ろから攻撃したため。というのが真相らしいです。クリストファー・ノーラン監督の新作映画「ダンケルク」には、果たして登場するのだろうか……

 

ドイツ人もすぐにデファイアントの真実を見抜き、バトル・オブ・ブリテンに際しては十分対策が取られました。これに対抗してデファイアントは、部隊全体で円を描いて全周防御するという戦術を編み出しましたが、これはまったく役に立ちませんでした……

 

本来爆撃機を「落としに向かう」はずの防空戦闘機が、守りの態勢でぐるぐる回っていても、あまり意味は無かったでしょう。不条理な話だ。

 

昼間防空戦闘機としてはまったく役に立たなかったデファイアントですが、その後夜間戦闘機に任務を変更してからは、それなりに活躍が出来たようです。それも新型の後継機が登場するまでの場繋ぎ、一時しのぎ的な任務ではあったようなのですが。

 

29

 

バトル・オブ・ブリテンが終わった後には急速に第一線から退いたデファイアントですが、訓練機や標的曳航、救助任務など雑多な任務で様々な働きをし、終戦まで運用は続きました。その際に本機の最も重要な機構であった動力ターレットは、全て取り外されました。

 

ターレットが無ければ普通に扱いやすい飛行機だったそうなので、このデファイアントを模範として、後ろ向きな現状に悩んだり、アイデンティティを模索したりしている人は、いっそそんなもの投げ捨ててしまえば新しい道が開けるかもしれません。この奇妙な戦闘機の生涯は、実に人生に示唆を与えてくれるのです……

 

なんていい話なんだ。

 

 

<完>

 

なおこのターレットをビーベレット装甲車に積んで簡易対空車両にする計画もあったそうですが、そっちもうまく行かなかったらしいぞ。